熊本県熊本市をホームタウンに活動するプロバスケットボールチーム「熊本ヴォルターズ(以下、ヴォルターズ)」。子どもたちに夢を、熊本に元気を届ける存在になることを目指し、2012年に創設されました。創設者の一人、湯之上聡氏が2024年に復帰し、運営会社熊本バスケットボール(株)の代表取締役社長に就任。同年、GLナビゲーションとオフィシャルDXパートナーシップ契約を締結し、連携をスタートさせました。この記事では、湯之上氏と当社 代表取締役CEO 神田滋宣が対面。連携により、ヴォルターズの未来をどのように拡げるかをともに見つめました。「スポーツを通じて地域を良くしたい」という1人の社員の熱意が連携の発端に湯之上氏(以下、湯之上):私がGLナビゲーションと出会ったのは、2022年頃、御社に転職した知人を介してでした。当時は別のバスケットボール関連会社に在籍しており、知人が神田さんを伴って営業やマーケティングDXの提案にきてくれましたね。神田社長(以下、神田):湯之上さんの知人でもある当社社員はバスケ経験者で、教育やスポーツなどを通じて地域や地元を良くするLX(ローカルトランスフォーメーション)に意欲を抱いており、湯之上さんにアプローチしたいと私に申し出てきたんです。当時、当社がサービス強化に取り組んでいたこともあるのですが、自分自身もその社員の想いや熱量に応えたいという気持ちがあって、提案させていただきました。湯之上:CRMやMAの活用を提案していただいたと記憶しています。当時、スポーツチームでそういった取り組みを行っているケースはあまりなかったと思うのですが、スポンサー満足度の向上とアップセルにつながりますし、こうした取り組みを導入することは今後とても重要になっていくと感じました。その後、私が2024年にヴォルターズに復帰して代表取締役社長に就任しました。同年のオフィシャルDXパートナーシップ契約締結を通じて、GLナビゲーションとの連携をスタートさせていただきました。神田:ヴォルターズの代表取締役社長となられた湯之上さんに改めてお会いして、CRMや営業だけでなく、様々な領域のDXでサポートさせていただけるのでは、と感じました。DXをアグレッシブに進めて、ヴォルターズがDXに積極的に取り組み高い成果を獲得しているスポーツチームであるという認知度を獲得するまでサポートさせていただきたいと思い、DXパートナーシップを申し出ました。「スポーツや地域を通じて社会をより良くしていきたい」という社員の想いや熱量に、僕自身が触発されたことが連携のきっかけと言えるかもしれません。視野を世界にまで広げながら、2030年B.PREMIERへの参入を目指す神田:ヴォルターズはどんなビジョンを掲げていらっしゃるのでしょうか?湯之上:2024年7月にリブランディングを行い、ビジョンとして「熊本の新たなる誇りをめざして。」、ミッションとして「熊本に走る熱源であれ。」という言葉を掲げました。ヴォルターズの存在を通じて地域に活気をもたらし、世界を見据えて熊本の価値を高めたい、という想いを込めています。2012年にヴォルターズを設立した際は、子どもたちの夢をつくりたい、バスケットボールを通じて人が感動し人と人がつながる環境をつくりたい、という想いを柱にしていました。チームの活動の中で、その想いは少しずつ実現していったと思います。その後、私は一度退任しましたが、2024年の復帰の際、新たなチャレンジとして「世界との交流」を通じて人生を豊かにしたり、次のステージに踏み出すきっかけや皆が一つになる場を創造したいと考えました。今回のリブランディングは、そうした考えを基盤に行っています。2026年にB.LEAGUEは再編され、従来の成績順ではなく一定基準を満たしたホームアリーナを有しているかや、入場者数、売上高でカテゴリー分けされます。現在、熊本ヴォルターズはホームアリーナを持たないため、B.LEAGUE再編時には最上位カテゴリーB.PREMIERに参入することができません。そこで、2030年をターゲットに、B.PREMIERに参入するためのロードマップをつくりました。そこで売上高や入場者数、アリーナの状況、従業員給与、ファンクラブやスクールの運営などについて目標を設定しています。また、自分の中で「世界の中の熊本」という裏テーマを置き、熊本から世界へプレーに行く、世界から熊本にプレーするために訪れる環境をつくる、という目標を据えて、実現に向けた取り組みを現在行っているところです。神田:地域に根ざしたチームから「バスケットボールを通じて人と人がつながる」と発信すると、一般的には地域の人同士がつながっていくというイメージがもたれがちかもしれませんが、湯之上さんは、地域だけでなく世界にまでフィールドを広げることを目指そうとされていらっしゃるんですね。湯之上:私自身、若い頃にバスケットボールの指導法を学ぶためにアメリカに渡り、人生が変わりました。世界に触れれば、日本人とは何か、自分は何かという気づきがあります。そして熊本に戻ってきたとき、世界に触れた経験は必ず地域の役に立つでしょう。世界に触れる経験をして初めて、なぜ世界に触れるべきかを社員もスタッフも理解するでしょうし、子どもたちにとってはなおさら有意義な機会になると思います。そんな経験を提供したいのです。神田:私達自身も、ヴォルターズとの連携で熊本やバスケットボールへの理解が深まり、多くの刺激をいただきました。その経験から、バスケットボールやスポーツを通じて人と人をつなぐ、そのフィールドを地域に留めずグローバルに広げるという湯之上さんのお考えに、強く共感します。私たちが提供しているサービスに、日本の学生や若手人材を対象に海外のスタートアップ企業でインターンシップを経験するGlobalWingというものがあります。選手のセカンドキャリア支援に向けた支援など、DXだけでなくご一緒できる取り組みが数多くあると感じています。ステークホルダー情報の管理と生産性の向上が、ビジョン実現のカギに神田:こうしたビジョンの実現を目指す中で、どのような課題感をお持ちだったのでしょうか。湯之上:ステークホルダー情報の管理手法を見直すことが一番の課題でした。ヴォルターズ設立の際、出資者やスポンサーの獲得に向けて精力的に営業活動を行いました。その状況をExcelで管理していたのですが、特定企業の情報をチェックしたいときなどの運用がスムーズではなく、一元管理に向けてあるシステムを活用しました。ところが、復帰した際に情報管理について確認したところ、スプレッドシートを使用する形式に変わっており、最新状況などがなかなかわからない状態になっていました。また、生産性についても課題感があります。そもそも社員の数が少なく、せっかく営業活動を行ってもフォローアップするまでに時間がかかってしまっています。それを解消していかないと、効率よく収益を伸ばすことができないと感じています。神田:しっかりとした収益源を確保していなければ、練習環境を整えたり魅力的な選手を獲得するといった、チーム力向上のための取り組みを行うことがなかなか難しくなると思います。スポンサーによる収益が非常に重要なのですが、担当する社員もセールス専任ではなくチーム運営などと兼任されているケースが多いですから、生産性をどのように上げていくかは非常に大切なテーマなのではないかと思います。また、関係性をベースに契約を獲得しているケースも多いため、ステークホルダー情報が属人的にブラックボックス化し、あの企業については担当者しか把握していない、といった事態に陥りやすい傾向があり、収益の持続可能性に課題が生じてしまいます。したがって、社員一人ひとりの生産性を高めると同時に、チームとしてセールス活動を行ってスポンサー契約を結び、チームとしてフォローしていく体制を確立することが重要なテーマになります。そうしたことを可能にするDXの推進はとても意義あることだと考えます。当社も地域に根ざして活動するプロレス団体とのスポンサー契約などを行っており、スポーツチームの支援が社員の満足度向上や新規顧客獲得につながることを実感しています。スポンサー契約に関する活動を戦略的に行うことで、相手企業にとってもメリットのある、Win-Winなスポンサーシップが実現するのではないかと考えています。湯之上:私たちもDXやスポンサーシップ制度の革新に、積極的にチャレンジしていきたいですね。DXのコンセプトは「ヴォルターズの想いに共鳴する熱狂的なファンづくり」。伴走型サポートでさらなる飛躍へ神田:今後、当社との連携によってさらにDXを進めていくことになりますが、実際に取り組む中で、課題を感じていらっしゃることはありますか?湯之上:私自身は生成AIを利用することもあるのですが、拠点が地方に位置することもあって、デジタルへの苦手意識を抱く社員もいます。マインドを変革して、スキルアップを図ってもらう必要があると感じています。デジタル人材を採用することも検討している状況です。神田:デジタル化やDXに対して否定的な反応が出る要因の一つとして、これまでアナログで培ってきた関係性がオンラインの機械的なものになってしまうのではないか、といった懸念や不安もあることと思います。私たちも、デジタル化によって効率を上げ生産性を高めることで、ヴォルターズの大きな魅力であったアナログで深い関係性を損なうことになってはいけない、ということを意識しています。したがって、DX推進に際しては、「売上げを上げるため」ではなく、「ヴォルターズの想いに共鳴する熱狂的なファンづくり」をコンセプトとします。これまでヴォルターズが指向されてきた、アナログ的で温かみのある深いコミュニケーションがファンとの間でこれまで以上に行えるようになることを、皆さんに理解していただけるように発信していきたいです。DXを使いこなすことについては、専用システムを用意するといった対応で社員の皆さんに伴走し、習得されるまで何度でもレクチャーさせていただきます。湯之上:自分一人で取り組んでいると、行き詰まったときに諦めてしまうこともあると思います。伴走スタイルでレクチャーを受けられれば安心で、とてもありがたいです。神田:こうした取り組みを通じて、スポーツチームという存在をイノベーションのハブにしていきたいと考えています。ヴォルターズを応援したい企業は数多くあると思います。そういった会社も巻き込んでサポートしていきたいです。そうすれば、ヴォルターズの方々もコストを抑えて様々なデジタルツールを活用することが可能になります。「予算の関係からツールに投資できない」というケースは少なくないのですが、運営の様々な面がアナログのままになってしまうと、社員の生産性だけでなく、人材にスキルアップの機会を提供できないという問題も生じます。スポーツチームやNPO法人のように、取り組むテーマに対して強い想いを抱いている方々が関わっている組織ほど新しいシステムやツールを活用する機会が減ってしまいがちで、この傾向を解消していくことを当社はやっていきたいと思うんです。湯之上:私自身もその点は非常に重要だと考えています。ツールへの投資も積極的に行って、社員にとって成長できる環境を用意し、一緒に夢を追いかける仲間づくりにつなげていきたいですね。神田:仕事柄、様々な企業の経営者の方とお会いするのですが、「若手人材が定着しない」というお悩みをよくお聞きします。「20代の人の30%以上が社内の業務がアナログということを理由に転職を考えている」というデータもあります。この世代はタイパに対する意識が高いため、社内の業務にアナログな面が残っていると無駄な業務が多いと感じて仕事の意義を見失い、モチベーションが下がってしまう傾向があります。もう一つ重要な点は、「これからの時代に通用するスキルがここでは身につかない」と思わせてしまうことで、社員は不安を感じ転職指向が高くなる。逆説的にはなるのですが、転職もできるスキルを身につけさせることが転職を防ぐ方策になります。したがって、システムやツールへの投資は非常に重要で、人材の定着につながる手段にもなるんです。連携で、ファンやスポンサー、スタッフの熱源となるヴォルターズの姿を確立神田:ヴォルターズの今後の展望や、その実現に向けてGLナビゲーションとどんなことに取り組みたいかをお聞かせください。湯之上:現在、チームの戦績がやや伸び悩む中でも、週末にはキャパオーバーするほどチケットの売上げが伸びており、集客面が好調です。これはフロントメンバーの努力の賜物で、熱源になる取り組みを行っていきたいと考えています。また、世界や首都圏との交流も着実に行っていきたいし、先ほどお話しした2030年に向けたロードマップの中で設定した目標を達成するために、DXも積極的に進めていきたいですね。神田:売上げや来場者数など様々なKPIが過去最高を突破し、さらなる高みを目指していらっしゃる状況で、ロードマップの裏テーマである「世界」というキーワードについては台湾との交流といった具体的な取り組みも進めていらっしゃいますよね。「熊本から世界へ」「世界から熊本へ」と湯之上さんが描かれたグローバルな交流についてもさらなる促進に向けてぜひ後押しさせていただきたいですし、DXのトレーニングや海外でのビジネス経験の提供といったかたちで人材のスキルアップもサポートさせていただきたいです。選手のセカンドキャリアについても、当社が提供するGlobal Wingを通じて海外のビジネスに触れる機会を提供することで支援できるのではないかと思っています。また、デジタルの活用によって、ファンやスポンサーの方々により喜んでいただける取り組みを一緒に企画して実行していきたいと考えています。これからも、ヴォルターズの発展に向けてサポートさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。