岩手県陸前高田市を拠点に、「まちづくり」「ひとづくり」を通じたより豊かで可能性あふれる日本社会の実現を目指し、活動を展開するNPO法人 SET。2022年11月よりGLナビゲーションと連携し、BPOのほか、Salesforceによるステークホルダー情報管理のためのCRM構築支援などを受けています。今回はSET設立メンバーであり現在は理事長を務める三井俊介氏をお招きし、NPO法人運営における課題やその解消法、GLナビゲーションとの連携の先に広がる今後の展望などについて、当社 代表取締役CEO 神田滋宣と語り合いました。きっかけはコロナ禍。ファーストコンタクトから2カ月で連携がスタート神田社長(以下、神田):三井さんと出会ったのは2010年、東日本大震災発生前でしたね。当時、三井さんは大学3年生で、国際交流や国際支援を行う学生団体を組織されていました。翌年、東日本大震災が起こった中で、当社でのインターンシップに参加していただきました。三井氏(以下、三井):震災後すぐに任意団体としてSETを設立しており、組織運営を学んだり資金づくりをしたいと考えて、GLナビゲーションのインターンシップに参加させていただきました。SET設立後、卒業するまでは拠点である岩手県陸前高田市に毎月通ってボランティア活動を行い、卒業後に移住。これからも復興支援に携わってまちづくりに参加したいという思いから、2013年6月にSETをNPO法人とし、活動を続けています。現在は、交流事業・暮らし事業・研究事業を主な柱に、地域住民と県外の若者との交流を促すことで様々な変化を両者に引き起こす「まちづくり」「ひとづくり」の取り組みを行っています。おかげさまで県外からの移住者も増え、まちづくりに関わる人材も増加傾向にあります。神田:初めてお会いした時、三井さんは「この人はこ何かを成し遂げる人だな」と思わせるものを持っており、印象的でした。それ以来、折々やり取りをさせていただいており、「何らかの取り組みを一緒にしたい」とずっと考えていたんです。三井:ありがとうございます(笑)。現在、GLナビゲーションよりBPOを受注するとともに、CRM構築支援を受けるかたちで連携させていただいていますよね。きっかけとなったのは、コロナ禍の影響で2022年にSETの経営が大変な状況の時でした。神田さんにメッセージをお送りしたところ、すぐにレスポンスをいただいて。「連絡をくれてありがとう」という言葉がすごくうれしかったです。神田:私もGLナビゲーションの事業を軌道に乗せるまでにとても苦労したので、ぜひ力になりたいと思ったんです。また、当時、BPO先を検討していたという背景もありました。三井さんを筆頭にNPO法人には能力も志も高い方が多いですが、それでも運営に行き詰まることはあります。コロナ禍の影響も大きいものの、収益の生み出し方や人材のキャリアアップといった点に課題があるのではないかと感じました。そういったことを踏まえると、寄付などよりも仕事を依頼したり運営のサポートをした方が課題の根本解決につながるし、当社の組織運営に触れてもらえるメリットもあると思ったんです。三井:連携の方向性について僕からもいくつか提案させていただきましたが、神田さんのそうしたお考えがあって現在の形になりました。BPOの受注については9月初めに連絡を差しあげてからセキュリティなどの体制を整えてスタートが11月と、スピーディに進んだことにもとても助けられました。この経験を活かして他社にも提案を行い、そこからも業務委託を受けることができたんですよ。事業収益が上がらない領域の課題に取り組みたい。収益性と人材のスキルアップに課題感神田:NPO法人を運営されていて、三井さんは現在どのような点に課題を感じていらっしゃいますか?三井:やはり収益面のことが大きいですね。NPO法人の運営に際しては、助成金・事業・業務委託・寄付の4つの収入の柱があり、このバランスを取るのが大切だとよく言われます。しかし、業務委託や助成金は外部依存型で、安定的に収入を得られないこともあります。特に助成金については使用用途が明確に定められており、活用しづらい面もあるんです。事業については、収益率があまり高いものはNPO法人の性質とそぐわないと感じています。そうすると寄付をどれだけ集められるかが大切になってくるのですが、日本には寄付文化が根づいていないこともあり、集めるのがなかなか難しくて。交流事業で多くの方と関わるSETはその点についてポテンシャルが高いと思っていたのですが、これまで接した方や企業についての情報管理がまだまだ確立していない状態で、ポテンシャルを力に変えられていないことに課題感があります。神田: NPOにも有志が集まってボランティア的な精神で活動をする、事業収益をきちんと上げる、といった風にNPO法人の運営にはいくつかのパターンがありますよね。SETのように経済合理性では解決できない社会問題に取り組んでいるNPO法人の場合、寄付が重要な収入源になります。しかし日本では寄付は身近なものではないので、集めるのがとても大変だと思います。三井:ビジネスで収益の上がらない領域の問題を扱うのがNPO法人の本来意義だと思っているので、やはりそこにフォーカスしていきたいんです。SETは陸前高田でもかなり浸透した存在になってきており、日本全体のNPO法人の中でもTOP10%に入る組織規模だと思います。けれど収益性を追求すると、本来取り組みたかった課題に注力することができなくなります。したがって、大変ではあるのですが寄付を着実に集めていくことに愚直に向き合いたいと考えています。神田:NPO法人が課題に真っ直ぐに取り組み続けることの大変さを非常に感じます。また、人材のスキルアップにも課題感があるのではないでしょうか。三井:DXの必要性を非常に感じていますが、職員に研修を受けさせようにも地方にいるとその機会がなく、費用面の問題もあります。職員にスキルアップの機会提供をすることの難しさを実感しています。神田:若く志のある人がどんどん移住してきてSETに携わり、その人達がスキルアップしていけば生産性が上がって収益向上につながります。やはり人材にスキルアップの機会を提供することは大切だと思います。SETと連携する中で当社が指向したことは、第1段階としては業務委託による仕事の提供ですが、第2段階では寄付が増えるためのサポート、そして人材のスキルアップの後押しだったんです。NPO法人への深い理解を基盤に、収益の確保と寄付につながる仕組みづくり、人材育成をサポート神田:「一緒にやろう」と声をおかけした際、受けてくださった理由をお聞きしたいです。三井:GLナビゲーションの本業であるDX推進を活用させていただけるし、Salesforceの研修も無料で受けられる、さらに組織運営に触れる機会もいただけるという破格の申し出に、とても力づけられたためです。NPO法人運営のコンサル的なところから短期サポートの提案を受けた経験はあるのですが、技術移転しつつSalesforceのカスタマイズといった初期段階から一貫して丁寧にレクチャーしていただけるという申し出は、これまでいただいたことがなかったです。神田:自分が組織運営で苦労したときを振り返ってどんなサポートが必要か考え、課題の本質的な解決につながることを提案させていただきました。SETをはじめ志の高いNPO法人が継続的に成長するためには、仕組みづくりと人材育成の、2つの観点でサポートを行うことが根本的な課題解決につながるのではないかと思ったんです。当社にとっても、自分たちが持っているナレッジを社会に還元するというCSR活動になります。実際に連携して感じたのは、SETの方々の意欲の旺盛さ。習得も早くて連携する価値があると思いましたし、これを1つの事例として今後様々なNPO法人を支援できたらいいな、とも考えました。大きな手応えがあり、BPOに関して様々なNPO法人に依頼するプラットフォームをつくるという構想にもつながりました。三井:サポート側にビジネス論が全て正しいというスタンスでいられると、自分たちの活動からNPO法人らしさがなくなってしまう可能性もあります。神田さんはNPO法人への理解が深いので、自分たちが大切にしていることを尊重しながら支援してくださることがありがたいですし、自分たちも安心して連携することができています。神田:どんな会社や組織でも、「なぜこの社会に存在するのか」という意義がとても大切だと思っています。株式会社は商売をして利益を出すことを前提に存在意義をつくりますが、NPO法人は必ずしも社会起業家として社会問題の解決と収益性の両立を目指す必要はなく、利益が出ないことにも取り組むという考えもあります。また、そういう観点も社会的には重要だと思うんです。三井:「ソーシャルビジネスをやろう」という気持ちは僕にもありましたが、地方で人口数千人ほどの場所を拠点とすると、それだけではなかなか難しい。行政から事業委託を受けるアクションも取ってみましたが、収益源をそれだけにしてしまうと活動にいろいろと制限が出てきます。本当に取り組みたいことを追求するためには、寄付の調達がとても重要でした。他のNPO法人でも、収益上の問題でやりたいことに取り組めない、というケースがあると思います。今回の、SETとGLナビゲーションの事例が多くの人に知られるようになれば、そういったNPO法人にとってもヒントとなり、良い未来につながるのではないでしょうか。神田: SETと当社との連携を、日本のNPO法人が元気になる一つのきっかけにしていきたいですよね。志ある移住者を後押しする、「地域を元気にする」人材育成の拠点として確立したい神田:今後どんなことに取り組みたいか、SETのビジョンを聞かせてください。三井:1つは移住者を対象にしたベーシックインカムを用意することです。地域や暮らしをより良くすることに意欲を持つ若者が移住してくる流れができつつありますが、アルバイトなどで生活費を稼ぎながらやりたいことに取り組むのは大変で、疲弊してしまうケースもあります。生活を維持するための収入基盤があれば、移住してきた人が地域で新たな取り組みに力を注ぐことができるんです。「チャレンジするならSETのある陸前高田に行けば、収益性にとらわれず地域の中でいろいろな活動ができる」という評価を確立したいと思っています。もう1つは地域をより良くするための担い手を国内各地に送り出すことです。SETでまちづくりのプログラムに取り組んだ若者は地域への関心が高く、地域や住民に向き合うスタンスも身につけています。そんな若者を、様々な分野で担い手不足に悩む各地に送り出してそこを元気にする、人材育成の拠点になりたいと考えています。神田:毎年どれくらいの移住者がいるのですか?三井:コロナ禍前の多いときには年間5、6人の移住がありました。去年くらいから復調してきていて、今後も増えていくのではないかと予測しています。年間5~10人ほどの移住者の受け入れを目標にしています。移住者を対象にしたシェアハウスも用意しており、水道光熱費やインターネットの回線使用料、車の利用料を含めて月1万円ほどで提供しています。地方は物価が安いので、月5万円ほど生活資金があれば十分なのではないかと思いますが、その反面時給も安く、その金額を得るためにかなりの時間を労働に割かなければならないのが現状となっています。神田:ベーシックインカムはとても有意義ですね。生活資金があれば移住者はより創造的でクリエイティブな活動に取り組めるし、それが地域の付加価値向上にもつながります。三井:資本主義や合理性、成長至上主義に疑問を抱いている若者が増えていると感じます。地方の良いところは、まず人間性が重視されること。ビジネスも信頼の積み重ねで成り立っている面が大きいんです。自分の人間性を表現しながら経済活動を行う、つまり収益性や合理性よりも人間性の方が上位に位置づけられるんですよ。そうした地方の価値観に基づく社会活動を若者が展開することで、これまでとは違う豊かさを地域から提示したり発信できます。その流れをもっと加速させていきたいと思っています。神田:三井さんたちの世代は、学生時代に国際協力やボランティアをする人など、社会を良くしたいという志向を持つ人が多かった印象があります。多くの人が大企業に就職したり公務員になってそれを実現しようとする中で、三井さんはダイレクトに現場に入って力を尽くす選択をされました。そういう方々の志を活かさなければならないし、そういう方々にこそ成功してほしいと私は思っています。SETとの連携を通じてやっていきたいのは、単に寄付を増やすのではなく、「活動を応援するために寄付をする、参画する」といった想いを持つ、本当の意味での仲間を増やすこと、そしてゆくゆくは三井さんのような選択や生き方がさらに尊重される社会にしていくことです。三井さんには、ぜひ、次の世代の人たちに「こういう生き方もあるんだ」という希望を提示し、行動に移す人を増やす存在になっていただきたいと期待しています。三井:GLナビゲーションと連携させていただきましたが、こういう関係性はともすると企業側に力があって一方的に支援されるような、対等ではない状態になりがちです。けれどGLナビゲーションは、「NPO法人にしかできないことがある」「収益性を追求せずに社会課題の解決を目指す生き方を社会の中で根付かせる必要がある」という風にSETをとてもリスペクトしてくださっていると感じます。そういったかたちでのNPO法人との連携を、これからもぜひ続けていっていただきたいですね。SETの事例をきっかけに、互いにリスペクトし合いながら協業するケースが日本中にたくさん生まれていったらうれしいです。対談記事掲載に伴い対談イベントの開催が決定しました。イベント概要リンクはこちら。・テ ー マ:『 地方のNPOと都会の株式会社における連携の可能性 』・日 時:2025年5月27日(火) 19時〜20時30分・場 所:オンライン開催@zoom (申込者のみアーカイブ配信を予定しております)・主 催:NPO法人SET・参加費用:無料